医学は残酷か

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「先生、医学って残酷なものですね」
C子さんは、吐き出すように言った。深いため息がもれ、肩がガクッと落ちた。
結婚して四年、子宝に恵まれない。
私のところで検査や診察を重ねたが、異常は発見されなかった。それならと、ご主人にも協力を求めて調べさせてもらったら、明らかに無精子、つまり、”タネなし”だとわかったのである。
こんな場合、どうしても子どもが欲しいとなれば、第三者の精子をもらって人工授精するほかない。だけどC子さんは、いまのところ、それを受け入れる気にならないという。
「こんなことなら、先生、なんにもわからんままに、”きっとそのうち妊娠する”と信じて毎晩セッセと励んでいたほうが、ずっと楽しかった、夢もあったような気がします・・・」
たしかに医学には、わからなかったことによる悲劇と裏腹に、わかったための悲劇も存在する。私はC子さんの涙を見ながら言葉もなかった。
もし時間がたって、あらためてどうしても子どもが欲しいと思ったら再び相談にくるように、としか言えなかった。
相性が合う結婚相手をみつければ、夫婦間に問題が生じて解決するためにここに書いたような大変なことをしないで済むかもしれません。
近年、医学が進歩したおかげで、かつては子どもをあきらめていた多くの人が子宝に恵まれるようになったのは事実である。
しかし、一方では、技術がすすんだがために、本来ならわからなかった欠陥や病根まで発見されるようになった。それをみつけた以上、医者としては放っておけない。
あらゆる手を打って治療につとめるものだ。C子さんのご主人の場合も諸種の検査をし、いろいろな刺激療法などを試みたけれど、可能性の窓はついに開いてくれなかったわけである。

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