ハレモノ扱い

EA039_L
「おめでとう。とうとう妊娠しましたよ」lそう告げても、K代さんはキョトンとしていた。
こちらが拍子抜けするほど無感動だった。
苦節十年という言葉があるが、実際に結婚十年目で、何年も治療に通っていると九割方あきらめが先に立っていて、妊娠の喜びが少しも実感につながらないものらしい。
「なんかの間違いじゃないんですか。いまさら妊娠なんて、私にそんなこと、あるはずないでしょ」
K代さんは、まるで不貞腐れたようなセリフを残して帰っていった。そして、その日を境にピタッと通院してこなくなった。
会話の中からその人の性格や望みなどを見つけられれば、出会った人は自分にとってどんな人なのか、わかりそうですね。
数週後、気になって連絡をとってみると、原因はすぐわかった。
同居している姑さんが「もう病院には行かんでいい。電車なんかに乗らず、じっと家にいて静養してなさい」と、足止めをしていたのだった。
私は姑さんを電話口に呼び出して説明した。
不妊症患者が妊娠する。それは、いわばホルモン注射や薬によって、無理に受胎させた、ということだ。健康な女性が正常に妊娠するのとは根本的に違う。
だから、妊娠とわかったあとも、引きつづき専門の病院で注射などを続け、だましだまし胎児を育てていかねばならない。
しっかりと根をおろすまでは、まるでガラス細工をお守りするような慎重さが必要なのだ。
「それじゃ、近くの医者にでも時どき連れていきますよ」
「あのね、医者は八百屋さんとは違うんですよ。近くだからいいってもんじゃないんですから、すぐにお連れしてください」


参考:

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